はむらぼ音楽講座 Copyright 1998 by Hamulabo

◆マンドリンオーケストラのための◆

<この曲を聴け!>

 マンドリンオーケストラのみなさんならば、演奏会のときに選曲や曲目解説で悩まれたことも一度や二度はあるはず。そこで、そんな悩みを少しでも解消すべく、こんなコーナーを作ってみました。

 マンドリンオリジナルから、オーケストラ曲、ピアノ曲、古い曲から新しい曲まで、いろいろなジャンルを取り上げてみようかと思います。とくに、譜面の有無、編成、著作権問題、演奏上の注意など、はむらぼプロデュースならではの豊富なコンテンツ! どうぞご利用くださいませ。

 そして、みなさんからのさまざまな情報も、ぜひぜひお寄せ下さいね。なお、当コンテンツ(紹介文、Midiファイルなど)をご利用される方は、はむらぼ企画までご一報ください。また、当ページは非営利目的、善意の情報ソースとして運営していますが、担当者の不勉強により記載事項に誤りがあった場合や、著作権の侵害等があった場合には、至急ご連絡ください。

●Sibelius,Jean「ヴァイオリンと管弦楽のための6つのユモレスク/1番作品87の1、2番作品87の2」(1917年)<New!>

 北欧の作曲家シベリウス(1865−1957年/フィンランド)の珠玉の小品(大喜)。20世紀に入ってのこの手の作品としては珍しい部類に入るのかな? ピアノ伴奏ではなく、最初から管弦楽伴奏をもつヴァイオリン独奏曲として作曲されています。シベリウスご本人いわく、この6つのユモレスクの世界を「存在の苦悩を太陽が断続的に照らし出す」と表現しているらしく、また「壮大な作品だ」とも称しています。1番から6番まで、それぞれ2分強から4分程度の小品集なのですが、作品番号が87(1、2番)、89(3〜6番)と別れているように、必ずしも6曲を続けて演奏することを想定していたわけではなさそうです。ということで、ここでは最初の2曲、作品87をご紹介しましょう。

 1番は、いくつかの主題が転調せずにいろいろな形で展開される、自由なロンド形式みたいな感じ。この曲はねえ、ヴァイオリンで弾くとよくわかるんですけど、とっても豊かに、楽に音がでるんですよ(大喜)。低音の豊かな音とか、上昇音形なども緊張感が高くなるし、ニ短調/ニ長調という魅力が十二分に発揮できますね。2番は、パガニーニに献呈された超絶技巧曲。第1主題は旋法的な早いパッセージ。ニ長調をベースに、Es音やC、B音などテンションがとっても気持ちいいです。第2主題は、明るいニ長調とその変形であるニ短調。全曲を通してAllegro assaiなんで、息つく暇もありませんけど(6曲のユモレスクの中で一番短いです)、ぢつはこの曲、ヴァイオリンで弾くよりもマンドリンの方が弾きやすそう(本当)。クロスピッキングとか多いんですけど、これはこれで大変勉強になるエチュードのような気がします。

 もひとつ、この曲集って、シベリウスの中でもトップクラスのオーケストレーションが素晴らしい曲なんですよね(といっても、それほどシベリウスを勉強したわけぢゃないけど。。。笑)。スコアを買って研究してみるといいと思うんですけど、シベリウスにありがちな、低音が重たすぎるオーケストレーションではなく、独奏ヴァイオリンを効果的に聴かせるために、大変神経を使った音使い、我々のいう贅沢なオーケストレーション(笑)、なんですね。この点で、マンドリン業界でもよく演奏される「フィンランディア」や「悲しきワルツ」などよりも、透き通ったシベリウスの魅力あるサウンドが作れるんぢゃないかな。最後に、お勧めCDでヴァイオリンを弾いているカヴァコス@ギリシャ人らしいぞ、ワタクシ大変好きですねえ。豊かな音色とリズム感、うん、いい感じ。この人、シベリウスのヴァイオリン協奏曲の原典版も録音しているんですけど、この世界のスペシャリストみたいなんで、安心して聴けましたです(喜)。

<オリジナル出版譜>

<マンドリン編曲譜、お勧め編成>

     
  • この曲は、少なくとも1番と2番に関しては、マンドリン独奏でも十分にその魅力が引き出せると思うんですよ。2番はそうとう難しいけどね(苦笑)。シベリウスはまだ著作権が切れていませんので、合奏用編曲には許諾が必要になりますね。

<お勧めCD>

     
  • レオニダス・カヴァコス(vl)/ユハニ・ラミンマキ(指揮)/エスポー市室内管弦楽団/FINLANDIA RECORDS WPCS4844(国内盤)


●Korngold,Erich Wolfgang「組曲『空騒ぎ』作品11から」(1919年)

 ワタクシもほとんどノーチェックの作曲家だったんですけど、大変おしゃれなアンコールピースですのでご紹介を。コルンゴルト(1897−1957/オールトリア→アメリカ)は、R.シュトラウスの影響をうけ10代から認められるなど、モーツァルトの再来といわれた人らしいです。1934年に米国ハリウッドにわたって、映画音楽の世界に入りましたが、バーバーなどとともに超耽美派(笑)、叙情的なメロディが大変印象的な作曲家ですね。

 さて、この曲はシェークスピアの同名の劇のために作られたものですが、後に室内管弦楽曲の組曲(op.11、5曲)に改編されているみたいです。ここでご紹介するのは、この中から4曲をヴァイオリンとピアノのために編曲したもの。それぞれ「花嫁の部屋の乙女」「ドグベリーとヴァージェス 夜警の行進」「間奏曲 庭園の場」「仮面舞踏会 ホーンパイプ」と名づけられています。それぞれ数分の曲で、4曲通して演奏してもいいし、1曲だけ選んで弾くのも大吉。どの曲も素敵なアンコールピースになりますね(大喜)。

 ワタクシの一押しは、1曲目の「花嫁」。婚礼を控えたヒロインのたたずまいが描かれたものですが、叙情性でいえばこの曲が一番ですね。半音進行のちょっとした心のゆれのあとは、幸せをかみしめるような甘く切ないメロディ。 さわりはこんな感じ(Midiファイル/1Kb/25秒)。7小節目のB♭からCの音に9度の跳躍をする部分がなんともいいですね(大喜)。全体の調性が変ニ長調、フラット5つという一見弾きにくい感じがしますが、それほど難しいわけではないので、一度トライしてみてはいかがでしょう? どの曲も、ヴァイオリンの叙情性を十二分に発揮できる秀作ですが、ぢつはマンドリンでもそこそこ弾けるのではないかと思っています。グリサンドやハーモニクス、フラジオレットなど、マンドリンでの表現にはやや難しいところもありますが、そこはみなさんの豊かな叙情あふれる想いで十分カバーできますよ(喜)。全曲を通しても10分ちょっとなんで、たまにはこういう世界を堪能してくださいませ。クラシック音楽というよりも、どちらかというと映画の中にでてくる雰囲気が作れれば大吉です。

<オリジナル出版譜>

<マンドリン編曲譜、お勧め編成>

     
  • ちょっと工夫すれば、ヴァイオリン譜をそのままマンドリンで演奏することが可能です。管弦楽組曲版は聴いたことがありませんが(スコアとかでてるのかな?)、小編成で独奏マンドリンを立ててもいいかもしれませんね。3曲目や4曲目などは、ソリストではなく全員合奏でもいいと思います。編曲の際は、出版社に許諾の確認をしてくださいね。

<お勧めCD>

     
  • ギル・シャハム(vl)/アンドレ・プレヴィン(ピアノ)/Deutsche Grammophon POCG−1782(国内盤)


●Chabrier,Emmanuel「歌劇『いやいやながらの王様』よりポーランドの祭り」(1887年)

 フランスの作曲家、エマニュエル・シャブリエ(1841−1894年/フランス)の作品です。シャブリエは、もともと内務省の官吏で、作曲家としてはアマチュアだったとか。デュパルクやフォーレらと親交があり、ワーグナーなどの影響を受けたようです。

 さて、「いやいやながらの王様(Le roi malgre lui)」は、3幕からなるオペラコミークですが、この曲のなかで管弦楽の小品として有名なのが「ポーランドの祭り」ですね。当方、このオペラコミーク自体を全曲聴いたことがないんで、どのような物語でどの場面に出てくるのか、良く知らないのですが(^^; 師匠ささざき氏がえらくお気に入りということで、スコアやCDを買ってみました。初めてこの曲を聴いたときは、たしか師匠からの電話口で7分くらいずっとだまって聴きつづけたんですけど(笑)、こんな楽しい曲を書く人って誰?って感じでしたよ。でもシャブリエだって聴いて、「そうか、狂詩曲スペインのシャブリエか!」って、ちょっとばかり納得でした。

 「ポーランドの祭り」は、いくつかの特徴的なリズムをもった舞曲が並べられた曲ですが、冒頭の弦によるファンファーレとその直後に来るマズルカのワルツが大吉(喜)。2拍目をつめて3拍目をそうとう後にひきずるポーランド特有のマズルカは、シュトラウスのワルツなどとまた一味違ったウキウキする音楽ですね。シャブリエがおしゃれなのは、この一歩間違えると泥臭くなってしまうマズルカを極めて効果的に配置して、その他の部分では、例えば3拍子系の音楽の中に突然2拍子が入ってくるなどの遊びをふんだんに取り入れているところでしょうか。初めて聴く人は、正拍がどこにあるかわからなくなると思いますよ(笑)。

 曲はニ長調を主に書かれているので、マンドリンオケなどでもとってもよく楽器がなってくれると思います。フル編成の大人数で演奏すると気持ちいいでしょうね。でも、こういうリズムに慣れてない人にとっては、アンサンブルがとっても難しいと思いますよ。こういう曲は、もうたくさん聴くだけ聴いて、身体で雰囲気を覚え込むしかないんですよね(笑)。でも、一度マスターしてしまえば応用は簡単ですから、是非ともこのリズム、ものにしてくださいませ。

<オリジナル出版譜>

<マンドリン編曲譜、お勧め編成>

     
  • これは大編成のオーケストラ曲ですので、かなりの人数が必要ですね。ファンファーレの部分もありますので、もしかしたらホルンなどを加えてもいいかもしれません。なお、この曲のマンドリン編曲譜面は、当方まだみたことがありません。いつか、やってみたい曲ですね。

<お勧めCD>

     
  • ジョン・エリオット・ガーディナー指揮/ウィーンフィルハーモニー/Deutsche Grammophon 447 751−2(輸入盤/これは国内盤も出ていますね)


●Enesco,Georges「演奏会用小品」(1906年)

 20世紀を代表するヴァイオリン・ヴィルトーゾであったジョルジュ・エネスコ(1881−1955年)の作品。パリ音楽院のコンクール課題曲として作曲された、エネスコ唯一のヴィオラ曲です。

 一言でいえば、なんともお洒落で優雅な、8分ほどの小ピースです(大喜)。単純な3部形式の曲で、緩・急・緩という構成をもちますが、そのいずれの部分もメロディアスな部分と技巧的な部分というバランスのとれた珠玉の小品ですね。

 ヴァイオリニストであったエネスコならではの音使いで、もの憂げな曲が多いヴィオラ・オリジナルの中では、ずいぶんと異色をはなっていると思います。とくにA線の1〜3ポジションあたりの音域を効果的に使って、のびのびとした印象を醸し出しています。ピアノパートも音数を少なくして、音の響きを前面に出していますね。

 この手の曲は、マンドリンでは演奏しにくくって、ましてや高音域が狭いマンドラでは、すべての部分を演奏することはできませんが、練習用ピースとして音をとってみるのもいいと思います。なんでもバリバリと弾いてしまいがちなマンドリニストが多い中(笑)、いい「加減」を知るにはとってもいいエチュードだと思いますよ。それに、世の中のマンドラ弾きには、当たり前のようにヴィオラ譜を読めるようになって欲しいですしね(本当)。

<オリジナル出版譜>

<マンドリン編曲譜、お勧め編成>

     
  • 音域的には、ピアノ伴奏のマンドラ独奏ですが、物理的に演奏不可能な個所が数箇所でてきます。中編成のコンチェルト・グロッソ的な編曲を行うのが良いと思いますが、エネスコはまだ著作権が切れていませんので、編曲許諾が必要になりますね。

<お勧めCD>

     
  • 今井信子(ヴィオラ)/「鳥が道に降りてきた〜オリジナル・ヴィオラ曲集〜」/BIS CD−829(国内盤)


●Falla,Manuel de「4つのスペイン風小品」(1908年)

 スペインの作曲家、マヌエル・デ・ファリャ(1876−1946年/スペイン)のパリ時代に書かれたピアノ曲集で、イサーク・アルベニスに献呈されています。それぞれ「アラゴネーサ(アラゴン風)」「クバーナ(キューバ風)」「モンタニェーサ(ラ・モンターニャ風)」「アンダルーサ(アンダルシア風)」というタイトルからわかるように、スペインにちなんだ民族音楽を下敷きにしていますが、民謡曲集と呼ぶにはあまりにもファリャの素晴らしい作曲技法が光る曲ですね。

 どの曲も単純な3部形式になっていますが、それぞれ特徴的なリズムと和声(不協和音がこれまた気持ちいいんだな、これが...大喜)で、スペインの民族音楽の奥深さを感じることができます。それぞれ3〜4分程度の小品で、4つの曲それぞれに特別な因果関係があるわけではありません。ですから、このなかの1曲だけ演奏することも良いと思いますよ。

 当方が一番好きなのは、2曲目の「クバーナ」。8分の6拍子と4分の3拍子が交互に来るいかにもスペインらしい(キューバは19世紀にはスペイン領でしたね)秀作。もの憂げなメロディもとっても雰囲気が出ていていい感じ(喜)。

 もしかしたらあまりオーケストラ(管弦楽にせよマンドリンにせよ)には向いていない曲かもしれませんが、20名くらいの比較的中編成の、とっても上手なマンドリンオケが演奏したら(笑)、結構いい雰囲気がでるのでは、と思っています。ギターパートを3つか4つくらいに分けて、ソリスティックな部分を強調すれば、とってもかっこいいぞ(喜)。スペイン音楽をルーツとする当方、いつか編曲してみたい曲なのです。(98/3/28)

<オリジナル出版譜>

<マンドリン編曲譜、お勧め編成>

     
  • ファリャはまだ著作権が切れていません。でも編曲許諾は下りやすいみたいです。シンコーミュージックが管理しているみたいなんで、詳しくは担当部署にお尋ねくださいね。いずれにせよマンドリン編曲版というものを聴いたことはありません。テンポのゆらぎが難しい曲なんで、編曲してもあまり普及しないかもね(笑)。

<お勧めCD>

     
  • アリシア・デ・ラローチャ(ピアノ)/LONDON POCL−2028(国内盤)


●Britten,Benjamin「シンプルシンフォニー作品4」(1934年)

 イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテン(1913−1976年/イギリス)の20歳のときの作品。5歳!から作曲を始めたブリテンが、9歳から12歳のときに書いた習作の旋律をもとに、4楽章形式の弦楽オーケストラ用にまとめあげたのがこの作品です。

 第1楽章と第4楽章は、簡単なソナタ形式。ともに第1主題を主に展開しています。譜面上はそれほど音数が多いわけではないのですが、その展開力やオーケストレーション、第1楽章では再現部が第2主題から再現されるといった点などは、ブリテンが天才と称される由縁でしょうか。4楽章のスピード感はとってもスリリングで、5度音程の跳躍なども、弾きにくいんですけど(笑)大変魅力的です。

 第2楽章は、すべてピッチカートで演奏されるスケルツオ。トリオ終わりの開放弦による和音奏法で音が分厚くなっていくところなどは、とっても気持ちがいいです。第3楽章は、その旋律の美しさが絶品な緩徐楽章。白玉の2分音符ばかりで弾くのは結構疲れますけど(笑)、どんどんブリテンの世界にのめり込んでいきます。

 ちなみに、スコア上では、ベースが( )付きのアドリブとなっており、弦楽四重奏でも演奏できるような配慮がなされています。もっとも、そのサウンドからすれば、各パート2〜4名程度の小編成のオケの方が魅力的かな? 4楽章全部で18分弱の曲。親しみやすい旋律で、不協和音などもほとんど出てきませんので、現代音楽っていって敬遠する必要は全然ないですよ(笑)。(98/3/8)

<オリジナル出版譜>

<マンドリン編曲譜、お勧め編成>

     
  • ブリテンはまだ著作権が切れていませんので、編曲には(例え同じ編曲譜面を用いても、演奏会ごとに)許諾が必要と思われます。また、公式演奏会などでは、演奏に際して規定の著作権料を支払らう必要がありそうです。詳細は、譜面屋さんや著作権協会などにご相談ください。

<お勧めCD>

     
  • ブリテン指揮/イギリス室内管弦楽団/KING(LONDON STREOFONIC) KICC8255(国内盤)


●Ernst,Heinrich Wilhelm「シューベルトの魔王の主題による大奇想曲作品26」(1854年)

 ドイツのヴィルトーゾ・ヴァイオリニスト、ハインリヒ・ヴィルヘルム・エルンスト(1814−1865/ドイツ)が書いたヴァイオリンソロのための小品。世の中には、いろいろな人がいるけど、有名なシューベルトの歌曲「魔王」をヴァイオリン1台で弾いてしまおうってのもすごいですよね(笑)。四分音符152のスピードで、ダブルストップ(重音奏法)じゃないところはほんの数箇所(苦笑)。トリプルストップも当たり前のこの曲は、じつはヴァイオリンよりもマンドリンなどの撥弦楽器の方が、それらしく聴こえるのではないかと思っています(笑)。とりあえず、曲のさわりは、こんな感じ(MIDIファイル/5Kb/32秒)。この辺まではなんとか弾けそうなんですけど、この後の部分ではハーモニクスが出てきたりで、弾けない確率256%(涙)。

 というか、ヴァイオリンの弓とは異なって、マンドリンのピッキングは原則としてアップかダウンを交互に弾くしかできませんので、だんだんつじつまが合わなくなってしまうんですよ(苦笑)。でも、こういうヴィルトーゾ的な作品をさらりと弾けてしまうと、そりゃ喝采度はものすごいでしょうから、腕に自信のある方、一度トライしてみてはいかがでしょうか? なお、左手2、4の指でD線とA線のソの音をオクターブで押さえられることが、試合参加の必要条件です(笑)。で、腱鞘炎になっても、はむらぼは責任を取りかねますので、あしからず(笑)。(98/2/23)

<オリジナル出版譜>

<お勧めCD>
     
  • ギドン・クレーメル(vl)、オレグ・マイセンベルグ(pf)/グラモフォン POCG1861(国内盤)


●Schnittke,Alfred「聖夜」(作曲年?)

 ロシアの作曲家アルフレッド・シュニトケ(1934−/ソ連)のヴァイオリンとピアノのために書かれた小品。シュニトケの音楽は、多様性(Polystylism)と称されていますが、自分がドイツ人(母親)、ロシア人(父親の家系)、ユダヤ人(父親はフランクフルト生まれのユダヤ人)の3種族を一挙に体現する人格であること、自分がカトリック、ユダヤ教、ロシア正教の3つの宗教的信条を持っていることと無縁ではないでしょう。もっとも、最近の作品はちょっと多様性とは異なってきたようですけど...

 この作品は、多様性の音楽というよりも、不協和音の妙味(笑)とでも言いましょうか、「形あるものは、いつか必ず崩壊する」「秩序から混沌へ」という考えを音楽で表現したものですね(この手法は、シュニトケの代表的な作曲技法です)。きれいな旋律で心地よいと思った瞬間、強烈な不協和音で現実の混沌に突き落とされてしまいます。曲のさわりは、こんな感じ(MIDIファイル/2Kb/48秒)。決して、音が間違っているわけではありませんよ(笑)。

 もともとの曲は、ヴァイオリンの特殊技法(ハーモニクスやピッチカート)が多用されており、音色の変化という点でも楽しい曲です。たしか、クレーメルのヴァイオリンでCDが出ていました。マンドリンでやるには、ちょっと無理のある曲ですけど、こういう音楽が世の中にあること、そして作曲家が何を表現したかったのか、などなど、ちょっと考えてみてはいかがでしょうか(笑)。(98/2/11)

<オリジナル出版譜>


●Delius,Frederick「春初めてのカッコウを聞いて」(1912年)

 イギリスの作曲家、フレデリック・ディーリアス(1862−1934/イギリス)の作品。実は、本日1/29ってディーリアスの誕生日なんですね。生きていれば136歳(笑)って、いつものCLASSICA@飯尾さんからの引用モード。

 曲は、春の訪れをクラリネットが奏でるカッコウの声に聞く、なんとも美しい小品です。2つの主題のうち第2主題は、ノルウェー民謡の「オーラの谷間で」が用いられています。ややもすると、メロディーが良くわからない曲なんですけど(苦笑)、きれいな映画音楽のようでもあり、のどかなノスタルジックな情景描写、カッコウが鳴くタイミングなど、世捨て人ディーリアス(笑)のセンスを満喫できる作品ですね。この世界に一度でもはまってしまうと、これは一生ものになります(本当)。マンドリン業界では、たぶんほとんどゼロといっていい種類の音楽じゃないかなあ。マンドリンでこういうフワフワとした雰囲気を出すのは不可能かもしれませんが(苦笑)、一度くらいはトライしてみてもいいんじゃないかなあ。なお、初演は1914年、メンゲルベルク指揮、ロンドン響です。(98/1/29)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • ソロ用の木管楽器(1管または2管かな)と、中規模なマンドリンオケが良いでしょう。演奏が重くなりすぎないように注意です。

<マンドリン編曲譜>

     
  • 当方が知る範囲では、マンドリン編曲および演奏はありません。

<お勧めCD>

     
  • サー・ジョン・バルビローリ指揮/ハレ管弦楽団/EMI CLASSICS TOCE−8679(国内盤)


●Grieg,Edvard「劇附随音楽ペールギュント」(1875/1892/1902年)

 ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843−1907)の作品。ヘンリ・イプセンの韻文劇「ペール・ギュント」をテキストに作曲されたものです。物語は、冒険好きのノルウェー人の国民性を象徴的に描いた作品で、ノルウェーに古くから伝わる伝説的な人物ペール・ギュントを主人公とした冒険のお話。話自体は、結構あちこちに場面がとんでしまって、実はペールはとっても遊び好きの人なんだ、ってことがわかります(笑)。その逆にペールの恋人ソルヴェイグが、なんとも忍耐強い清楚な女性という印象がありますね。

 さて曲ですが、当方、実は全曲版の1曲目、「結婚式の情景」が大好きです。華やかでいくつかの主題も出てくるのですが、テンポ的にマンドリン合奏では無理がありますね。トレモロの速さが合わないのが残念です。「朝」は、北欧のさわやかな朝を想像しがちですが、実は物語りでは、モロッコの砂漠の朝を描いています。「山の魔王の宮殿にて」は、下にも書きましたが合唱付きの方が断然良いです。隠れた名曲なのが「山の魔王の娘の踊り」と、終曲の「ソルヴェイグの子守歌」。有名な「ソルヴェイグの歌」とは違いますので、ご注意を。なんとも静かで心やすまるボカリーズです。(98/1/21)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • 比較的大規模の編成が良いと思いますが、選曲次第では、木管楽器などを入れない中規模の編成の方がより効果的かもしれません。  
  • 余裕のある場合は、是非ともソプラノ歌手を呼んで、1〜2曲歌って頂くと良いと思います。  
  • 有名な「山の魔王の宮殿にて」は、本来合唱が入っており、組曲版で休符があるところに歌や叫び声(笑)が入ります。逆に言うと、休符部分は、その台詞のためにあるんで、楽器だけでは文字どおり間の抜けた演奏になってしまいます(笑)。できるだけ合唱を加えた形で演奏してくださいね。

<マンドリン編曲譜>

     
  • 有名な曲なので、あちこちで編曲譜があると思います。はむらぼ編曲では、通常の組曲とは異なり、全曲版から「朝」「アニトラの踊り」「アラビアの踊り」「山の魔王の娘の踊り」「ハリング舞曲」「ソルヴェイグの子守歌」の6曲をアレンジしてみました。編成は、弦6部、ピアノ、打楽器です。

<最近のマンドリン業界での演奏>

     
  • 第34回ALL KMCコンサート(97/10/12 渋谷公会堂:小川高洋指揮/慶応義塾大学マンドリンクラブ)  
  • 第4回エバーグリーンコンサート(96/2/24 川口リリア小ホール:佐藤洋志指揮)

<お勧めCD>

     
  • エサ・ペッカ・サロネン指揮/バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団/SONY RECORDS SRCR9479(オリジナル/抜粋盤)


●Ravel,Maurice「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」(1920/22年)

 フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875−1937/フランス)の室内楽作品。「ルヴェ・ミュジカル」誌が、1920年にドビュッシーの追悼特集号を出したときに書かれたもので、この時にはストラヴィンスキーやサティなども小品を書き下ろしています。ラヴェルの中では、かなり激しい曲になりますね。20世紀初頭の作品として、和声や旋律というこれまでの音楽の要素に対して、かなりの抵抗感を示し、新たな響きを目指した曲といえます。

 ヴァイオリンとチェロは、完全に対等にポリフォニックに扱われており、和声もかなりのぶつかりあいがあり、二つの楽器のコントラストが激しく強調されます。曲は4楽章形式。マンドリンとマンドロンチェロで演奏するには、物理的に無理な個所も多いのですが(苦笑)、例えば4楽章のようなリズミックな部分は、面白い演奏が可能なのではないでしょうか。(98/1/17)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • 原曲の譜面をそのまま用いて、マンドリンとチェロの二重奏を行うのが良いでしょう。

<お勧めCD>

     
  • ラヴェル「ヴァイオリンとピアノのための作品全集」:シャンタル・ジュイエ(vl)、パシカル・ロジェ(pf)/LONDON POCL−1690(国内盤)


●Vieutemps,Henri「アメリカの思い出」(1843年)

 ベルギーのヴィルトーゾ・ヴァイオリニスト&作曲家、アンリ・ビュータン(1820−1881/ベルギー)が、23歳のときに、アメリカに渡りボストンからニューオリンズまで半年間の演奏旅行をした時の作品。この時の演奏旅行自体は、アメリカの人々が欧州の上流社会のように洗練されたものではないと、ビュータン自身はあまり満足しなかったようです。

 曲は、みなさんお馴染みのYankee Doodle(アルプス一万尺の曲名で知られていますね)を主題とした6つの変奏曲形式になっています。短いヴィルトーゾの序奏があり、ハーモニクスを効果的に使った主題が演奏されます。第1変奏は、これまたハーモニクスやピッチカートを多用したテクニックの見せ所。和声の早弾き、スケールの変奏を終えたあと、フラジオレットでメロディを奏でるところもきれいです。最後はVivaceのトリプルストップ(三重和音)で激しく終わります。(98/1/17)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • 独奏マンドリンとピアノでも十分楽しめます(もっとも弾ければの話ですが...笑)。小編成のコンチェルト形式に編曲しても面白いと思います。

<マンドリン編曲譜>

     
  • 公開演奏会用ではありませんが、笹崎譲さんが独奏マンドリン、マンドリン1、マンドラ2、チェロという編成で編曲しています。

<お勧めCD>

     
  • はむらぼには、この曲のCDはありませんが、パールマンだったと思うのですがテープを持っています。著名なヴァイオリニストの小品集などを探せば、簡単に手に入るのではないでしょうか。


●Berg,Alban「ピアノソナタ作品1」(1908年)

 アルバン・ベルク(1885−1935/ドイツ)のデビュー作。ベルクが初めて作った曲ではありませんが、シェーンベルクに師事し作曲法や音楽理論を指導された時の卒業制作ともいうべき作品です。1911年に初演され、ロマン主義の末期に位置する濃厚なサウンドを持つ曲ですが、当時の評判はあまり良くなかったようです。

 曲はソナタ形式をもつものの、これまでの古典的なソナタの概念からすると大きく逸脱していますね。かろうじて調性はありますが、調性の対立構造(第1主題と第2主題との関係)などは、伝統的なものからかけ離れています。展開部なども対位法を駆使して、20世紀の記念碑的な存在といえるでしょう。もともと、単なるピアノソナタでは収まり切れないほどの楽想を持っており、管弦楽用にオーケストレーションをすることも、ある程度は考えていたのでしょう。ベルク本人は管弦楽編曲をしたわけではありませんが、1984年にオランダの作曲家テオ・ファーベイが手がけてシャイーの指揮の下で世界初録音を残しています。(98/1/16)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • もともとピアノ曲ですが、中規模もしくは大規模のマンドリン合奏でロマンチックな濃厚な演奏を行えば、作品の魅力を十二分に発揮できるでしょう。音色の変化と1発の効果(笑)のために、打楽器を入れた編成の方がより効果的です。

<マンドリン編曲譜>

     
  • まだ、マンドリン編曲はなされていないと思います。ただし、98年9月のメトロポリタン・マンドリン・オーケストラの第9回定期演奏会の候補曲にあがっていますので、乞うご期待系。

<お勧めCD>

     
  • マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)/グラモフォン423 678−2(輸入版/国内盤は廃盤?)・・・ドビュッシーの12の練習曲とカップリングしてます。  
  • シャイー指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団/DECCA POCL−1687(国内盤)・・・マーラー巨人とのカップリングです。


●Mendelssohn,Felix「弦楽のための交響曲第8番ニ長調」(1821年)

 メンデルスゾーン(1809−1847/ドイツ)のなんと12歳のころの作品。なんたって小学校卒業したかしないかくらいの少年が(笑)、こんなにすばらしい曲を書いてしまうことは驚きです。

 曲は、ニ長調の4楽章形式をした古典的なソナタ形式をとっています。1楽章は短い序奏の後、はつらつとしたメロディアスな第1主題に続き、リズミックな第2主題がでてきます。第2楽章は、ビオラを中心とした緩徐楽章。3楽章(MIDIファイル/16K/2分20秒)は、明るいメヌエットです。4楽章(MIDIファイル/59K/7分)は、この曲のなかでももっとも完成度の高いソナタ形式。まるでモーツァルトをそのままお手本にしたような見事な展開部です。再現部からコーダにかけても、さらなる複雑な展開を見せており、お見事と賞賛するしかないかも(笑)。上手な演奏をすればするほど、味の出てくる作品だと思います。(98/1/12)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • もともと弦楽のための曲ですので、そのまま小規模ないしは中規模のマンドリン合奏でも十分に演奏できるでしょう。サウンドに厚みを出すために、各パート4名程度いると良いと思います。

<マンドリン編曲譜>

     
  • 愛のミュージシャンささざきゆづるさんが、1995年にマンドリン系弦6部で編曲しています。

<お勧めCD>

     
  • オルフェウス室内管弦楽団/グラモフォン437 528−2(輸入版/国内盤は廃盤?)  
  • コンチェルト・ケルン/WJ−テルデックWPCS5923〜5(輸入盤/3枚組)  
  • 詳細は手元にありませんが、NAXOSの廉価版でも出ていました。

<最近のマンドリン業界での演奏>

     
  • 第4回エバーグリーンコンサート(96/2/24 川口リリア小ホール:笹崎譲指揮)


●Berruti,Dino「ハンガリアの黄昏」(1936年?)

 ディーノ・ベルッティ(?−1947/イタリア)の黄昏をテーマとした3曲のうちの一つ。原曲タイトルは「TRAMONTO MAGIARO−RAPSODIA」。ベルッティは独学でしたが、1930年のイル・プレットロ主催の作曲コンクールで入選し一躍有名となりました。主な作品としては、「黄昏前奏曲」「ハンガリアの黄昏」「黄昏語る時」「夕べの静けさ」などがあります(マンドリンオリジナル作曲家の詳細については、桑原マンドリン研究所のHPに詳細が載っています)。

 「ハンガリアの黄昏」は、1936年の第7回イルプレットロ主催の国際コンクールで一等賞をとった作品で、マンドリン独奏、マンドリン、マンドラ、ギターの基本編成に、マンドロンチェロ、マンドローネ、ティンパニ、合わせシンバル、スネア、トライアングルが加わっています。典型的なジプシー調のコンチェルトで、ラッサン部分(MIDIファイル/8K/2分44秒/笹崎編曲版)と、フリスカ部分(MIDIファイル/15K/1分11秒/笹崎編曲版)に分けられます。半音音階を強調したり、1拍目のリズムをためるなど、テンポ感を大事に演奏すると、活き活きとした音楽になります。バイオリンで有名な「チゴイネルワイゼン」や、ジプシーアンサンブルのCDなどで雰囲気をつかむと良いでしょう。(98/1/10)

<オリジナル出版譜>

<お勧めの編成>

     
  • 作曲家オリジナルの基本編成でも、大編成を想定しているようで、マンドラのDivが多かったり、クワルティーノのアドリブなども指示されています。ただし、独奏マンドリンの音量には限界がありますので、バランスには注意が必要です。
     
  • 当時の演奏技術の制約などから、ところどころオーケストレーションに妥協点や、和声上好ましくない音の重ね方などがみられます。これらの補筆や加筆などにより、一層の演奏効果も期待できるでしょう。
     
  • 独奏の場合は、ピアノ伴奏譜が同じくVISSARIから出版されています。ジプシーソングですので、必ずしも出版譜そのままで演奏するだけでなく、さまざまなフレーズや装飾音符の追加、オクターブの跳躍などを試してみるのも、個性がでて良いと思います。

<編曲譜>

     
  • 愛のミュージシャンささざきゆづるさんが、1992年に独奏マンドリン、弦6部、ティンパニ、合わせシンバル、大太鼓という編成で編曲しています。

<お勧めCD>

     
  • 第2回EVER GREEN CONCERT/指揮 笹崎譲/独奏マンドリン 佐藤洋志/エバーグリーン・マンドリン・アンサンブル/プライベート版

<最近のマンドリン業界での演奏>

     
  • 第2回エバーグリーンコンサート(93/1/16 abc会館小ホール:笹崎譲指揮)
     
  • JMJ主催の青少年音楽祭でも、榊原喜三さんなどのマンドリニストが演奏していましたね。


●Webern,Anton von「弦楽四重奏のための緩徐楽章」(1905年)<New!>

 シェーンベルクの弟子であったヴェーベルン(1883−1945/ウィーン)の初期の作品。作品番号がついていないこの曲は、12音技法が確立される前にかかれ、大変ロマンチックな雰囲気を持っています。同じ年に書かれ、同じく作品番号がついていない弦楽四重奏曲(String Quartet)がほとんど調性感を持たないのと対照的ですが、実はこの曲を書いたとき、彼は後に妻となる従妹に夢中になっており、このようなポスト・ヴァーグナー風の作品を書いたのだという説があります(メトロポリタン演奏会パンフレットより抜粋)。

 曲は、単一の楽章からなり、ハ短調4分の4拍子、単純な3部形式の非常にゆったりとした曲(MIDIファイル/25K/7分14秒)です。3連符が多く、これをきっかけにアンサンブルする個所が多いので、ゆっくりな曲ゆえにリズムを正しくとることが必要となります。音を聞きあう練習曲としては最適かもしれませんね。(98/1/8)

<お勧めの編成>
・原曲のカルテットの編成そのままで演奏しても、十分楽しいと思いますが、マンドリン系4人では音が薄すぎるかもしれません。できればベースを入れたり、各パート数名で演奏する方が良いのではないでしょうか。チェロのPizz部分などをギターに任せても良いと思います。あまりテンポが遅くなりすぎないことが演奏のコツですね。トレモロが中膨らみになりすぎないよう、ご注意を。メリハリのある演奏をするには、重要なことです。

<原曲出版譜>
・Carl Fischerから弦楽四重奏用のスタディスコア(Langsamer Satz for String Quartet)が出版されています。

<お勧めCD>
・Emerson Strin Quartet/グラモフォン445 828−2(国内版、輸入版)

<マンドリン編曲譜>
・愛のミュージシャンささざきゆづるさんが、弦6部(ギター、ベースを含む)で編曲しています。

<最近のマンドリン業界での演奏>
・メトロポリタンマンドリンオーケストラ第8回定期演奏会(97/9/6  カザルスホール:小出雄聖指揮)


●服部正「迦樓羅面(かるらめん)」(1931年8月作)

 慶応マンドリンクラブ(KMC)育ての親、服部正先生の23歳の作品、オルケストラ・シンフォニカ・タケヰに献曲されています。1929年に同オーケストラの作曲コンクールで「叙情的風景」が入選し作曲家の道を歩むこととなった服部先生の名声を一気に高めるきっかけとなったのが、この「迦樓羅面」です。同年のオルケストラ・シンフォニカ・タケヰの演奏会で、菅原明朗先生の指揮で初演されました。その後KMCでは、1971年(第106回定演)、1973年(第111回定演)、1986年(第136回定演)、1989年(第143回)に演奏されています。

 「迦樓羅面」とは、正倉院御物の伎楽面の一つで、当時これらの面を用いて行列をしたり舞曲にあわせて舞を舞ったのだろうといわれています。丹色の球を含んだ繊と朱色の鶏冠とを持つ、グロテスクな風貌にインスパイアされて作曲されたものです。

 曲は3楽章形式で、「Preludio」「Balletto」「Finale」となっていますが、3曲続けて演奏されます。雅楽の雰囲気をもつ前奏曲、2拍子でテンポの早いバレエ(MIDIファイル/15K/41秒)」、そして静かな3楽章と、大編成のマンドリンオーケストラの魅力を満喫できる曲です。それにしても、戦前のマンドリンオーケストラでこのような大編成の曲を作られたとは(アルト、リュート、ローネすべて入っています!!)、今の私たちの環境からは想像もつかないですね。こういう曲こそ、JMJなどの演奏会でやっていただけるといいと思うのですが、みなさんいかがでしょうか?(98/1/7)

<編成>
・フルート1(ピッコロ持ち替え)、クラリネット1、マンドリン、コントラアルト、マンドラ、リュート、マンドチェロ、マンドローネ、ギター、コントラバス、ティンパニ、合わせシンバル、ゴング、ピアノという大編成です。

<出版譜>
・自筆譜スコアが慶応マンドリンクラブに保存されていますが、服部正名作集(非売品、1995年発行)にも収録されています。

<最近のマンドリン業界での演奏>
・慶応マンドリンクラブ第143回定期演奏会(89/12/17 日本青年館:菅原英明指揮)。


●吉松隆「4つの小さな夢の歌」(1997年作?)

 当方の97年マイ・ベスト・アルバム!「吉松隆ギター作品集/福田進一ギター」に収録されています。4曲の小さな曲集で、それぞれ「1.春:5月の夢の歌」「2.8月の歪んだワルツ」「3.秋:11月の夢の歌」「4.子守歌・・・明日の朝も世界があるといいね」とタイトルがついています。4曲演奏しても、あわせてせいぜい7〜8分程度ですね。

 この曲は、もともと吉松さんのギター作品集「優しき玩具」の追加補遺版ともいうべき曲で、放送や劇などで使われたメロディを新たに編集・編曲し直したようです。福田進一のCDでは、一部ハーモニカがメロディを奏でており、吉松ワールドを知るには最適の曲集です。叙情的といい切って良いと思いますが、なんとも懐かしく心暖めてくれる作品で、当方も大のお気に入りです。ちなみにギター独奏自体は、楽章にもよりますが、全体的にそれほど難しくはないです。メロディラインが途切れないように、左手の押えがポイントになりますね。(98/1/5)

<お勧めの編成>
 もともとギター独奏用に書かれていますが、メロディラインなどはハーモニカなどいろいろな楽器でなぞっても、とってもきれいです。マンドリンとギターのデュオや、カルテットなど数名でアンサンブルするには最適でしょう。間違ってもマンドリン・オケではやらないように(笑)。

<原曲出版譜>
・現代ギター社から、「吉松隆ギター作品集第3集 アラウンド・ザ・ラウンド・グラウンド」に収録されています。

<マンドリン編曲譜>
・詳しくは知りませんが、著作権が発生しているでしょうから、演奏や編曲には作曲家の許諾が必要でしょう。詳細は現代ギター社にお問い合わせください。プライベートであわせる程度でしたら、出版譜を購入して、メロディラインをそのままマンドリンで演奏することもできるかもしれません。

<お勧めCD>
・「優しき玩具 吉松隆ギター作品集」/福田進一ギター DENON COCO80633(国内盤)


●Busoni,Ferruccio 民謡「ああ、かわいいオーガスチン」を主題とするフーガ(1888年作)

 バッハのシャコンヌのピアノ編曲でも有名なブゾーニ(1866−1924/ドイツ)の曲。ピアノ連弾のために書かれた曲ですが、みなさんおなじみの民謡「ああ、かわいいオーガスチン(MIDIファイル/1K/10秒)」を主題とした7分ほどの曲です。全体を通じてオーガスチンの主題をいろいろな形に変形して巨大なフーガを構築しています。前奏のあと、フーガの出だしはこんな感じ(MIDIファイル4K/22秒)。楽しい曲でしょ? 中間部の緩やかなメロディのあと、頭にもどってすぐに新しいフーガのコーダになります。最後はプレストの2拍子になって激しく終わります。

 ブライトコップフから連弾ピアノ譜が出ているんですけど、解説がみんなドイツ語なんで、詳しいことは良く分かりません(笑)。どなたか、訳していただけませんかねえ(他力本願)。(98/1/5)

<お勧めの編成>
 原曲はピアノ連弾。曲調からすると、比較的大編成のマンドリンオーケストラが良いのではないでしょうか。ただし、低音パートは早弾きが多いので、かなり難しくなりそうです。

<原曲出版譜>
・ブライトコップフ&ヘルテル社からピアノ連弾譜として出版されています。
 Fuga uber das Volkslied "O du lieber Augsutin" fur Klavier zu vier Handen / EDITION BREITKOPF 8147 / Breitkopf & Hartel Wiesbaden

<マンドリン編曲譜>
・鬼才愛のミュージシャンささざきゆづる氏が、弦6部(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、B)+パーカッション(Timp、合わせシンバル)の編成で編曲しています。

<お勧めCD>
・ブゾーニ「2台ピアノのための音楽」 pf:Joseph Banowetz / Ronald Stevenson /Altarus AIR−CD−9044(輸入盤/オリジナル版)
・第3回エバーグリーンコンサート/プライベート盤(指揮:佐藤洋志 演奏:エバーグリーンマンドリンアンサンブル)

<最近のマンドリン業界での演奏>
・エバーグリーン・マンドリン・アンサンブル第3回定演(94/11/6 石橋メモリアルホール)で初演。


●Bizet,Georges「アルルの女」組曲(1872年作)

 みなさん、お馴染みジョルジュ・ビゼー(1838−1875/フランス)の「アルルの女」。もともとはアルフォン・ドーデの戯曲のために書かれた27曲からなる劇付随音楽です。劇場向けなので、編成は、木管が1名ずつ(ファゴットのみ2本)、ホルン2、コルネット1、ティンパニ、ピアノ、弦(バイオリン7、ビオラ2、チェロ5、ベース2)、ハーモニューム、合唱と、室内楽的なものとなっています。カリヨンの鐘の部分は、ピアノで演奏されるため、ずいぶん違った雰囲気に聴こえますよ。

 ビゼー自身が大オーケストラ用に編曲したのは、第1組曲の4曲だけ。第2組曲は、友人のエルネスト・ギローによるものです。もっとも有名な第2組曲のメヌエット(Flのメロディで大変有名ですね。昔、小学校の下校の合図だったような記憶が...笑)は、実は原曲にはなく、別の歌劇「美しきペルトの娘」から借用したものです。

 物語は、音楽のイメージとはちょっと違って悲劇のお話。詳細はスコアやCDの解説に任せるとして、ここでは劇中に「アルルの女」が一度も登場しないってことだけお教えしましょう。(98/1/1)

<お勧めの編成>
 原曲は色彩感豊かで贅沢なオーケストレーションをしています。したがって、マンドリンオーケストラも中編成から大編成がお勧め。パーカッションや管楽器も入ってもいいでしょう。ただし、ピッコロなどは気をつけて下さい。かなり音色がきつくなりますので、ピッチの差などが目立ってしまいます。

<原曲出版譜>
・全音楽譜出版社から、第1組曲と第2組曲が1冊で出ています。
・音楽之友社から、2分冊で出ています。

<マンドリン編曲譜>
・はむらぼ編曲では、第2組曲の間奏曲を除く合計7曲が出ています。編成は弦6部のみ(Mn1、Mn2、Md、Mc、Gt、B)です。
・アンサンブルアメディオの小穴氏が、第1組曲を編曲されていたと記憶しています。たぶん、木管楽器(Fl、Cl)とパーカッションが入った大編成の編曲です。
・鈴木静一さんが編曲されていると思います。中央大学MCや(株)イケガクで、詳細を教えていただけるのではないでしょうか。

<お勧めCD>
・アンドレ・クリュイタンス指揮/フランス国立管弦楽団/EMI TOCE−3166(組曲/国内盤)
・ロバート・ハイドン・クラーク指揮/ロンドンコンソール/Collins 11412(全曲版/輸入盤)
・カルロ・リッツィ指揮/ロンドン交響楽団/テルデック WPCS5906(全曲版/国内盤)

<最近のマンドリン業界での演奏>
・クリスタル・マンドリン・アンサンブル第14回定演(98/3/15 武蔵野市民文化会館)

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